5月6日
行政コスト計算書について、私は大変興味深く、その結果に注目して
きました。理由は公的部門の大きな課題に「コスト意識の欠如」が
しばしば指摘されるからです。
公的会計はいわゆるキャッシュベースを基本としており、年度にまたが
る費用項目の取り扱いについて(減価償却、退職給与引当金など)大き
な問題があります。
この手法を導入し、これらの問題にスポットを当てることを私は大い
に評価したいと思います。さらにコスト計算に基づいて、広く区民に問
題提起し、政策決定に生かすことが望まれます。
以下 これまで街頭でお話したことをベースに、補足して掲載します。
行政コスト計算書についてお話いたします。
平成15年に続き、16年度も行政コスト計算書が作成されました。
15年度は保育園、保養所、自転車対策についてコスト計算が行われま
した。
16年度は2つの事業について計算が行われました。
一つ目は、15年度からの引き続きですが、保育園のコストです。
2つ目は、新規の計算として「住宅事業」のコストについて計算がされ
ました。そこで今年度新しく取り組んだ住宅事業についてご説明いたし
ます。
新宿区が住宅事業をやっているの?と疑問をもたれる方もいらっしゃる
と思います。区営住宅・区民住宅の名称で新宿区でも住宅事業を行って
おります。
実は私も公営住宅といえば都営住宅ばかり頭に浮かび、恥ずかしなが
ら、あまり詳しく知りませんでした。建築後10年を経た都営住宅を協
議の上、新宿区へ無償で移管されている事例(全体の4割)が多く見ら
れます。
2つの住宅事業を合わせると総供給戸数は1400戸、3200人を
超えます。
第一の区営住宅は住宅困窮者や収入基準を設け入居者を限定して行
っています。区営住宅はさらに所有、借上げの2タイプに分けられ、お
よそ1000戸、1800名が入居しています。
平均入居年数は12年です。借り上げ型(全体の4割弱)には国と都か
ら補助金(20年間)がでています。また募集状況は40−90倍、
16年では50倍の高率でした。
そこで本論のコスト計算ですが、減価償却ほかの概念を導入し、分析
した区営住宅の結果は以下のようです。
区営住宅の総コストは10億2千万円で事業収入(受け取り家賃)4億
7千万円を引いた一般財源(税)投入はネットで6億2千万円、行政コ
スト比率(総収入/総コスト)は46%です。
この事業に使用している資産は都からの無償移管分も含めると、土地で
54億6千万円となっています。
第二の区民住宅は義務教育終了前の児童を扶養する中堅所得者を対象に
380戸、1400名、公募により募集しています。区営と同様に、所
有型と借り上げ型(全体の9割弱)に分類されます。
平均入居年数は7年強、募集倍率5−18倍で16年は9倍でした。
区民住宅のコスト分析結果は以下のようです。
総コストは区営とほぼ同規模の9億5千万円ですが、事業収入の6億3
百万円を引くと、一般財源の(税)投入額はネットで3億6千万円、行
政コスト比率は63%です。こちらも国と都から補助金を支給されてい
ます。
この事業に使用している移管分も含め資産は土地で17億円(取得ベー
ス)となっています。
そこで昨年12月に報告が出された新宿区住宅まちづくり審議会の
「これからの住宅政策のあり方について」の提言の中でも指摘されまし
たが、現在のような住宅供給状況の中で、「いったい新宿区がこれらの
事業を今後も積極的に行う意味があるのか」、と言った議論があります。
提言でも区営住宅に関して、@セーフティーネットとしての意義は重
要であるが、A抽選方法によることは正しいのか、B公平性から利用期
間を定める必要があるのではないか、といった疑問がだされています。
また区民住宅に関しては、@若い世帯の定住化などの目的が果たして
現在の住宅事情や区の人口回復傾向に合っているのか、との指摘があり
ます。
計算書では現状の問題点として以下のようなことが挙げられています。
まず第一に最近の長引く景気低迷デフレ状況によって区営住宅での家賃
の滞納です。総額で9千万円ほどになっています。生活困窮者からの回
収は著しく困難で、母子家庭、高齢者でも同様です。
第二に債権放棄などが早急にできないため、多額の不良債権が残って
います。区営型では1千9百万円で、(総収入2億7千万に対して7%)
区民型で7千5百万円(総収入4億7百万に対して18%)に上ります。
第三に、移管タイプの住宅はすでに平均築年数が27年を超えており、
今後修繕建て替えなど財政需要が見込まれます。
第四に、借り上げタイプでは高い利子率の時代に利子補給を行ってき
たため、この補給金額も多額になっています。
第五に平成2年から設けた定住化基金も、利子の低下により毎年持ち
出し状態で、このままですと21年度には基金残高が無くなってしまう
計算です。
今後の方向性としては、@区民住宅の借り上げ型の補助金問題、A家
賃滞納の対策強化、B受益者負担の点から賃料の適正化を図る、C借り
換えによる利子補給の圧縮、D管理業務について指定管理者制度の活用
を検討する、などが提案されています。
さらに報告書作成の受託業者であるナカチによれば、以下のような具体
的な提言を行っています。
「区民住宅」の「借り上げ型」は機会費用も加味すると、「所有型」
と結果的にそれほどコストの差は無いが、開始から20年後の国や都の
補助金が無くなる時点(いまから20年後ではない)では、打ち切りも
視野に入れて、考えていかなければならない、というものです。
私はこのナカチ(公会計研究所)の結論に基本的に賛成です。
最後に、私からコメントを一つ述べます。
この報告書のなかでも機会費用ということで触れられていますが、公的
部門の意思決定・事業開始・契約交渉などの長期化、すなわち「時間よ
りも合意を重視することで、民間に比べ時間が掛かりすぎること」、機
会費用=時間コストという観点も重要であると指摘しておきたいと思い
ます。
民間のように採算の点から思い切った措置がほとんど取れない公的部
門の宿命ともいえることです。これに関連して、最近「市場化テスト」
などという聞きなれない手法も登場しています。
大部で専門用語も多く出てくる報告書のため、分りにくいことは否め
ません。もう少し私がうまくまとめられると良いのですが、申し訳あり
ませんでした。
(平成16年度事業別行政コスト計算書 平成17年3月刊)